転生人魚姫はごはんが食べたい!
 彼がそう宣言すると、ニナから視線で助けを求められた気がする。助けというか、決定権は私にあるということだろう。

「構いませんわ」

「――は? ていうか君、誰?」

 まるで私の存在に今初めて気付いたような発言だ。ニナは明らかにほっとしていたけれど、了承したというのにあまりいい顔はされなかった。むしろ露骨に嫌な顔を現在進行でされている。

「初めまして。エスティーナと申します。ラージェス様の……」

 あれ? 私って……あの人のなんなのかしら!? 妻と名乗っても許されるの!?

 そんな躊躇いが私の答えを曖昧なものにしていた。

「ジェス君ってば、昼は大事な用事があるって聞いたけど……何、君がその相手?」

 そもそもジェス君て、ラージェス様? 旦那様のこと、でいいのよね? ニナも旦那様と言っていたし。

 初めて顔を合わせたエリク様との会話は次から次へと疑問が飛び出すものだった。

「確かに私はラージェス様と食事の約束をしています。よろしければこちらで一緒に待ちませんか?」

「はっ――」

 今、笑いました? 微笑みではなく明らかに嘲笑の部類で。

「君、僕のこと知らないの? ふうん。なんだ、大したことないんだね」

「……失礼、しました」

 さっきから態度が大きい人ねえっ!
 でも平常心よ。こんなことにいちいち目くじらを立てていられないわ。怒るだけ労力の無駄というものよ。前世を思い出しなさい……取引先の堅物重役たちの方がよほどイライラさせてくれたんだから! エリク様なんて可愛いもよ! 

「僕はエリク。ジェス君の側近だよ。僕のことくらい憶えておきなよね」

 ――で? その勝ち誇ったような顔はなんなのかしら? 私は妻なのよって、張り合ったほうがいいのかしら? 

 エリク様は憶えておけとでも言うように、というか実際に言ったわね。腕組みしたエリク様はまるで私を威圧しているようだった。

「失礼しましたエリク様。以後お見知りおきを」

「そういうのいいから」

 エリク様は私の言葉を最後まで聞かずにぴしゃりと突っぱねる。

「言っとくけど、ジェス君にちょっかい出さないでよね。ジェス君てチャラそうに見えて純粋なんだからね」

 イデットさんの時にも感じたけれど、これは一体なんの牽制?
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