転生人魚姫はごはんが食べたい!
 返答に躊躇っているうちにまたしても豪快に扉が開く。今度こそ登場したのは正真正銘、旦那様だった。

「悪い待たせた! ……ん? どうしたエリク、早速俺の嫁に会いに来たのか?」

「僕は仕事の話があって……って俺の嫁って何どういうこと!?」

 エリク様は物凄い形相で旦那様に詰め寄った。

「は? 何、この人君の奥さんなの!? き、君、いつ結婚したのさ!?」

「三日前」

 私たちは三日前のあの日から結婚したことになっているらしい。

「はあ!? な、何それ! 無事に帰ってきたと思ったら親友に挨拶もなしに、何勝手に結婚決めてるのさ! 僕、側近だよ! だよね!?」

 どうやら旦那様の唐突ぶりに側近の自信を無しくているようで、もしも私が同じ立場だったらと思うと同情せずにはいられなかった。

「その件に関しては悪かったと思ってる。けど、ついてきてほしいと頼んだ俺に、日焼けだけは絶対にしたくないから船旅とか無理。本気で無理――と拒否したのはお前だ。なら仕方がないと、俺の代わりに視察を頼むという話になっただう? その間にちょっとした運命の出会いがあってな。そしてお前と顔を合わせるのはあれ以来、今日が初めてだ」

「そうだけど……そうだけどさあ!」

 盛大に機嫌を損ねたらしく、エリク様はぷくりと頬を膨らませた。ちょっと可愛いけれど、多分ここで私が口を挟んだら大事件になると思うので何も言わない。火に油は注がないが一番だ。

「僕、簡単には許さないからね」

「限定ケーキでどうだ?」

 お菓子でつるんですか!?

「……一番高いやつだからね」

 つられた!?
 少しは悩んでいたようだけど、わりとあっさりつられましたね!?
 それにしても旦那様ったら……怖ろしい人だわ。限定ケーキを切り札に持っているなんて、今度取引をもちかける事があるのなら私も気をつけないといけないわ。限定ケーキが相手なら仕方がないこともあるわよね……だって限定ケーキですもの!

「ちょっとお嫁さん!」

「……え? ……あ! わ、私のこと!」

 エリク様の不意打ちに反応が遅れてしまう。あまりにも自分が誰かの妻だという認識が今の私には足りていないらしい。
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