転生人魚姫はごはんが食べたい!
 横から見ると中には具が入っているにも関わらず、断面は綺麗に切り揃えられていた。タルトやパイを切るのが不得意な私にとっては尊敬に値する仕事ぶりだ。もちろん崩れてしまっても美味しく食べられるけれど、やっぱり少し残念な気持ちにはなる。
 ふっくらとした料理の厚みを害さず、断面を滑らかに、かつ器を壊さずに入れられた包丁。一見してお菓子のような外見ではあるけれど、断面から除くのはベーコンだ。付け合わせには緑を中心とした野菜がたっぷりと盛り付けられている。

 私は前世でこれとよく似た料理を食べたことがあるけれど、この世界のものと同じなのかしら……
 いいえ。答え合わせならいつでも出来るでしょう、エスティーナ。貴女が今、本当にしなければならないことは一つよね?

「旦那様! せっかく料理人の方が作って下さったのですから、早く召し上がったほうがいいんですよね!?」

 せっかく焼き立てを用意してくれたんですもの。一刻も早く食べるのよ!

「そうだな。話は食べながらでも出来る。まずは食事だな」

 理解のある旦那様で良かったと思う。私は手を合わせ、懐かしい言葉を口にした。

「いただきます」

 これよこれ! これが言いたかったのよ!!

 食事をする前の大切な儀式。食材、作ってくれた人、全てに感謝を伝えるための言葉。きっと私はこの瞬間のためにテーブルマナーを勉強していたのね。

 いただきます!

 ナイフとフォークを受け止めたのは柔らかな生地。ただし底まで辿り着くと器の部分はやはりさっくりとしている。

 いただきます――

 もう一度、念入りに、私はこの奇跡に感謝する。そうして一口目を呑みこんだ瞬間、言葉を失った。

「エスティ?」

 食事前の賑やかさから一転、黙り込む私を旦那様は不審に感じている。

「旦那様……」

 私は静かに食器を下ろすと俯いていた。

「どうした?」

 優しい旦那様は食事の最中だというのに自らも手を止め、私を心配してくれる。

「聞きたいことが、あるのです」

「どうした? なんでも言ってくれ」

 私の深刻な声音に併せてか、旦那様の声も固くなる。

「この料理の名は?」

「は?」

「ですから料理! この素晴らしい料理の名称ですわ!」
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