転生人魚姫はごはんが食べたい!
人間と取引
 これは陸に暮らす彼らにとって、そして海に暮らす私たちにとって、歴史的な事件となることでしょう。
 引き金を引くのは、私――

 海面へと浮上すれば、巨大な帆船は砂浜に打ち上げられるように停泊していた。船底には大きな穴が、強い風を受けるための帆は力なく垂れ下がっている。この船の状態では再び海を進むことは難しいだろう。
 乗船していた者たちはすでに船から下り、島には多くの男性たちが立ち尽くしていた。ただし島といってもここは砂浜と僅かばかりの草木で構成された小さな島だ。そんな心許ない状況が彼らの表情に影を落とさせる。空気には絶望の色が濃く浮かんでいた。
 まさに声を掛けるのを躊躇われるような静寂ではあるけれど、怖気付いてはいられない。私は彼らの注目を集めるためにわざと尾ひれで派手な水音を立てた。

「おいあれ、人魚じゃないか!?」

 作戦は成功。私の存在に気付いた人間たちの表情は困り顔から瞬く間に驚きへと塗り替えられていく。
 疑問系であることは仕方がないことだ。なにしろ上半身だけを見せたところで私たちは人間と変わらない。人魚であることを証明したいのなら足を見せなければ。
 自分の中でもとびきり友好的な笑みを作り、自信たっぷりに声を発することから始めた。幸い私の顔立ちは得意げな表情が様になると身内からの評判も高く交渉にはうってつけらしい。

「初めまして。人間のみなさま」

 気まぐれで姿を見せたわけじゃない。会話をする意思があることを伝えるため、まずは挨拶を交わす。生憎彼らの前に立つことは出来ないので、そばに飛び出していた大きめの岩に腰掛けた。
 腰を落ち着け髪をなびかせ、優雅に尾ひれの存在を見せつける。すると見計らったように海中から姿を見せた仲間たちが背後に並ぶ。人間を相手に取引を持ちかけようという私の心強い護衛だ。

「青い人魚だ……」

 距離が近づいた分、人間たちの表情をより鮮明に判断することが出来る。彼らの視線は私へと注がれているから、もちろん私のことだろう。今回護衛としてついてきてくれた仲間たちの中で青という色彩を持つ人魚も私だけだしね。
 青い鱗に被われた鰭、青い瞳、神秘的な美しさだと仲間たちはよく褒めてくれた。けれどこの色の何がそんなに気になるのか。疑問ではあるけれど、今は話を進めることを優先しよう。
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