転生人魚姫はごはんが食べたい!
 エリク様は旦那様の側近だ。書類仕事をこなすことも多いはず。ということは書物についても詳しいはず、よね? 人脈も私よりは広いはずだし、誰か適任の先生を知っているかもしれない。

「僕が教えてあげる」

「え、でも」

「僕が教えてあげるって言ってんの。有り難く感謝すれば?」

 これは早々に了承した方が良さそうだ。それもエリク様の気が変わらないうちに。

「ありがとうございます! エリク様の文字は、読めなかったけれど、とても丁寧だと思いました。教えてもらえたら嬉しいです」

「ホント、調子くるうんですけど」

「大丈夫ですか?」

「君のせいだよ! もう……」

 そっぽを向くエリク様は可愛いと形容するに相応しい。いつものつんけんしていると態度も微笑ましいとは思うけれど。
 そんな気持ちで笑みを浮かべていると、エリク様は思い出したように言った。

「あとその丁寧な話し方、いい加減止めて。エリクでいいから」

「え、でも」

「君が僕のことエリク様とか呼んで敬語使ってたら僕までそうしなきゃいけないじゃん! 僕は君のこと、エスティーナ様とか呼びたくないの!」

「では親しい友のようにエスティと呼んでもらえたら嬉しいです。よろしくね、エリク」

 手を差し伸べるとエリクは考えておくと言うだけだった。一方的に会話を打ち切られてばかりいたことに比べれば大した進歩だと思う。これからはようやくまともに会話が出来そうだ。

「これ、読んで練習すれば」

 エリクが差し出したのはこの状況の元凶ともいえる本だった。あの慌てぶりから、本当にいいのかと、本と彼の表情を交互に見比べてしまう。動けずにいると痺れを切らしたエリクから押し付けるように手渡された。

「僕の小説が読めないって言うの?」

「読んでもいいの?」

「だからそう言ってんの! 感想、ちゃんと聞かせてよね。誰かに見せるの、初めてなんだから……。君がしっかり勉強して読めるようになれたらの話だけど!」

「優秀な先生が見つかったのよ。大丈夫に決まっているわ」

「へえ、言うじゃん」

 挑発的なエリクに、私も同じ表情で答えていた。
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