転生人魚姫はごはんが食べたい!
 あ、やっぱり凝っているのね……いつもお疲れ様です。

「お前、上手いな。細い指のくせして、的確に良い所を刺激してくる」

「ふ、ふ、ふ……私の肩揉みは指名が入るほど人気だったのですよ。無償で私の肩揉みが体験出来るなんて、旦那様の特権です!」

「そりゃいいな」

「旦那様、いつもありがとうございます」

「こうして奥さんに労ってもらえるんなら頑張りがいがあるよ」

「私で良ければ、またいつでも揉ませていただきますわ。肩叩きくらいお安いご用ですもの! その代わり、時々で構いませんから私も揉んで下さると嬉しいのです」

「それこそお安いご用だな。さて、俺も可愛い妻を労うとするか。交代するぜー」

「もう良いのですか?」

 まだ五分くらいしか経っていない気がする。

「しっかり満足させてもらったから安心しろよ。それにしても、女性に肩を叩いてほしいって頼まれたのは初めてだな」

 それは、王子様に肩を揉ませようなんて不届き者は私くらいでしょうね。言い換えるのなら、私だけの特権だと思ってもいいのかしら?

 軽く腕まくりをした旦那様が今度は私の肩に手を置いた。

「痛くないか?」

 そっと力を入れていく様子はあまりにもじれったい。慎重すぎると笑いそうになったけれど、きっと私のためを思ってのことだろう。

「もっと強くしても大丈夫ですよ。そんなに柔じゃありませんもの!」

「ははっ、女性の肩を叩いてこんなに喜ばれたのも初めてだな」

「貴重な経験になりました?」

 私は心地良さに酔いながら他愛のない話をする。すると不意に旦那様が思い出したように言った。

「明日、夜会に出席することになったぞ」

 旦那様からの世間話に、私は気を付けていってらっしゃいませと返事をする。

「おい、奥さん。可愛い奥さんがいるってのに俺を一人寂しく出席させるつもりか?」

 ……もしかして、私に言ってます?

「む、無理です無理っ!」

 飛び上がろうとした身体を旦那様の両手がソファーに押さえつけた。そして一言。

「大丈夫だ。お前なら出来る」

 押さえつけられ上手く振り向くことも出来ない中、なんとか私は訴えた。

「夜会って、つまりパーティー!?」

「いわゆる貴族の集まりという奴だな」

 貴族の妻として、その役目が迫っていることに早くも私は慌ててしまう。
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