転生人魚姫はごはんが食べたい!
 喜んでついていきたいけれど、少しは悩んだほうがそれらしいだろうか。私が思案する素振りを見せると伯爵が後押しする。

「実はこの会場に運び込んだ品は一部に過ぎません。エスティーナ様にはぜひ他の品も見ていただきたいのです。きっと気に入って下さることでしょう」

「随分と自信がありますのね」

「ちょっとしたプレゼントも用意しておりますので、ぜひ」

 私は伯爵の手引きで部屋を移ることになった。会場を出る前に旦那様に目配せしようとしたけれど、人だかりのせいで上手く伝わらない。けれどここで騒ぎ立てるわけにもいかず、私は大人しく伯爵を追いかけることにする。
 伯爵の後についていくと会場の賑わいが遠のいて行く。案内されたのは伯爵の個人的なコレクションを集めた部屋で、壁には一面の絵画が飾られていた。ガラスケースには大粒の宝石が並び、室内に収められた価値だけで私は卒倒しそうだ。

 でも今の私は旦那様の妻よ。王子様の妻はこんなことで気圧されたりしないわ!

「素敵な部屋ですわね」

「こちらには私のコレクションの中でもとりわけ価値のある物を集めております。いくらお披露目会とはいえ、価値のわからない者たちに見せてやるには勿体ないですからな」

 あれだけ会場に飾っておきながらまだ隠していたのね……

 呆れながらも伯爵に同意し、称賛を送った。

「私は伯爵様の基準を満たせたのかしら?」

「もちろんですとも。エスティーナ様は話のわかる方でいらっしゃる。そこで、どうですかな? この中から一つ、エスティーナ様にお譲りしたいと考えているのですが」

「まあ! いいんですの?」

 何も知らない、無邪気な顔で喜んで見せる。何を見返りに求めるのかは知らないけれど、こういう女の方が騙しやすいでしょう? 貴女好みの女を演じてあげますわ。

 私も旦那様に取引を迫った身だ。この人が私との取引を望んでいることを感じる。

「エスティーナ様に喜んでいただけるのなら、これらの品たちもさぞ幸せでしょうな。どうぞお好きなものを選んでやって下さい」

「まあ嬉しい! どうしようかしら……」

 周囲に注意を払いながら宝石を眺める。

 物で私を懐柔しようというのね。だとしたら私の扱いが下手な人だわ。私を懐柔したいのならホールケーキくらい用意しておきなさい! そんなことじゃあエリクだって懐柔出来ないわ。
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