街のパン屋にはあやかしが集う
ここ二週間位の間に車に轢かれそうになったり、頭上から鉢植えが落ちて来て危うく怪我をしそうになったり、熱が出て三日間寝込んだりもした。その他にも肩に何者かが乗っているのではないか?と思う程にずしりとした重みを感じている。

「今度、外で会えませんか?出来れば夜に…」

「……?はい、夜ならば私も都合が良いです」

「なるべく早い方が良いな…。今日か明日、どちらか都合はつきますか?」

「今日でも大丈夫ですよ。お店閉めたら上がれますから、おそらく三十分後には…」

「では、近くの公園でお待ちしております」

「はい、なるべく急いで行きます」

何のお誘いなのか分からないままに約束をしてしまった。彼は無表情なままに約束を取り付けると彼女を置いて、先に外に出た。今まで黙って会話を聞いていた綺麗な女性が口を開く。

「あの人、貴方の事もパンの事も気に入っているのよ。普段ならノーマネーの安請け合いはしないから。じゃあ、また買いに来るね」

ヒラヒラと私に向かって手を振り、店を後にした。彼女が私に近付いた時、何となくだが凍り付くような寒さを身近に感じたが気のせいだったのだろうか?

閉店時間になり身支度を急いで整えて、公園へと早歩きをする。過保護な父が「どこに行くんだ?」としつこく聞いて来たが、私も20歳を過ぎた良い大人だから心配しないで!と念を押して自宅を出て来た。

冬の公園は風が冷たくひっそりとしていて、彼だけがベンチに一人座って居た。
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