私たちは 簡単に繋がり合い 傷つけ合う
駅前の公園のベンチに座り、辻を待った。
いくつもの街灯が、夕方の公園を大げさにライトアップしてまるで野球のナイターのような明るさだった。
面接を終えると、辻から返信メールが来ていた。幾度かやりとりをしてとりあえず駅前で待ち合わせをする事になった。辻は、この駅の最寄りの大学に通っていてこの辺りのお店にも詳しいらしい。今日まで忘れていたけれど、辻が超難関大学に合格した事は、中学の同級生の七海から昔聞いていたのでなんとなく知っていた。

高校に入学した頃、辻はしょっちゅう私を買い物に誘ってきた。
学校が休みの日に待ち合わせをして、辻の洋服を一緒に選んだり、ご飯を食べて家まで送ってもらう。辻にとってはデートのつもりなのかもしれないけれど、私は全く気乗りしなかった。
あの卒業式を境に、辻の考えていることが全く理解できなくなった。友達以上恋人未満みたいな関係も、辻に好きな人がいるせいでこれ以上にはなれないと決めつけている私にはまるで嬉しくなかった。それでも辻は私を誘い、立場が逆転し始めると不思議と辻への想いはみるみる薄れ、夏休みに入る頃、ついに私は別の恋に落ちてしまった。そして辻の誘いを断るようになっていた。それっきり辻の事を思い出す事なんて無かった。

私の視界に辻が現れる。
こちらに向かって歩きながら照れ笑いをして小さく片手を上げてみせた。私は座り直して小さく手を振った。なんだかお互いに大人になったなぁという感覚が妙にリアルに押し寄せてきた。
「待った?寒かったでしょ。」
そう言いながら、辻は私の隣に座った。
「大丈夫。今来たところ。」
「バイトの面接だったんでしょう?どうだった?」
「あ、うん、決まったよ。就活前にも場所は違うんだけど同じ系列のお店でバイトしてたの。だから今日は制服を受け取ったり、働ける曜日の確認で。面接というよりは打ち合わせのような感じ。」
「なるほどね。」
辻は笑顔でじっと私を見つめてしばらく黙り込んでいた。
「なにー。」
私は思わず苦笑いしてしまった。
「いや。矢沢、痩せた?」
「そりゃぁ、あの頃に比べれば痩せたよ。あの頃ぱんぱんだったもの!」
「いつだっけ。俺ら、いつから会ってないんだっけ?」
「高1の始めじゃない?」
私が言うと、辻は「うーん…?」としばらく遠くを見るようにして考えていた。辻も私と同じように、私の事など思い出さない大学生活を送ってきたのかと思うとなんだか残念な気持ちになる。
「そうだっけ…?」
小さく囁くような声を出す辻の顔を、私は思わず覗き込む。そんな可愛らしい誤魔化し方を、一体どこで覚えたのか問いただしたい気持ちに駆られた。
「髪、伸びたね。眼鏡もかけてないし、辻じゃないみたいでびっくりしちゃった。」
私が言うと辻は照れたように笑ってみせた。そして言った。
「矢沢って、お酒飲める?近くに色んな美味しい焼酎が飲める店あるんだ。」
「いいね、焼酎好きだよ。そこ行こう。」
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