桜田課長の秘密
「500万です。月々20万の返済に加えて、アパートの更新料、祖母の一周忌も重なって、今クビになったら終わりなんですっ!」

相手は血も涙もないリストラの鬼。
それは分かっている。

でもほんの少しでも、人間らしい心があるのなら――

「お願いします、なんでもしますから」

祈るような気持ちで見つめる。

「…………」

実際には1分にも満たない沈黙だったのかもしれない。
けれども胸をギリギリと締めつける時間は、永遠にも感じた。

私の視線を受け止める、メガネの奥の鋭い眼光。

フッと、その目が伏せられた。

「分かりました」

「本当ですかっ!」

ああ、鬼の目にも涙っ!
ため息をつく鬼に詰め寄ると。

「ただし――」

と、長い指が差し出された。

「キャバクラのお仕事は即刻やめていただきます」

「それじゃあ、借金が返せません」

「ええ、ですから別の仕事をご紹介します」

「……それは、どんな」

一抹の不安を胸にたずねると、課長の指が私の鞄を差した。

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