桜田課長の秘密
「で、借金の理由は?」

組んだ腕の上でリズムを刻む人差し指は、話を早く終わらせたいとのアピールだろうか。

けれど、こちとら人生かかってんだ。
簡単に終わらせるつもりはない。

覚悟を決め、課長の目を真っ直ぐに見つめながら口を開く。

「6年前に亡くなった父の、ギャンブル依存に闘病……
昨年亡くなった祖母の介護施設の費用などで生活が苦しく、仕方なく借り入れました」

あの頃は毎日がギリギリで、自分のことを考える余裕など無かった。
本当は進学だってしたかったし、先生にも奨学金を勧められた。
けど、1円でも多く稼がなきゃならなかったし、1秒でも多くの時間が必要だった。

「高卒でバイト暮らしの私を相手にしてくれたのは、高利な街の金融会社だけでした。
それでも、はじめは何とかなっていたんです。でも祖母が亡くなる前の数か月は思うように仕事が出来ず、滞った返済の分、額が膨らんでしまいました」

課長の人差し指の動きがピタリと止まり、表情に戸惑いが浮かんだ。

「ご家族や親せきは……遺産などもないのですか?」

「母は恋人を作って駆け落ちしました。父は荒み、親戚にも縁を切られました」

思い出したくもない過去。

「祖母の残した遺産は自宅だけでしたが、相続税の関係で放棄。……残ったのは、借金だけです」

「なるほど……で、金額はいくらですか?」

ブランドや男とはかけ離れた内容に、さすがに罪悪感を持ったのだろう。
気まずそうな課長に、ここぞとばかりに訴える。

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