桜田課長の秘密
沈み込むような静寂が室内を満たす。

沈黙に耐えかね、口を開こうとしたときだった。

カランーー

琉球グラスの中の氷が音をたて。
その音に反応した課長が、メガネを外して微笑んだ。

そうして私は、その瞬間、自分の過ちを理解した。

なぜ張り合おうとしてしまったんだろう。
いや、そもそも最初に危機感を覚えたときに、逃げ出せばよかったんだ。

彼がゆらりと立ち上がり、私の隣に移動してくる。

「君は僕に恋愛感情を持っていますか?」

「は、まさか!」

「では試してみましょうか。愛のない相手に触れられて、どう感じるか」

甘い声で囁かれて、肩がすくんだ。
息がかかるほどの距離で私を見つめる、黒々と濡れた瞳。

「ふっ……えっ?」

いつの間に手を取られていたのだろう。
手のひらに走った、くすぐったいような刺激に肩が震えた。

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