桜田課長の秘密
「この話は、なかったことにしてください」

こんな辱めを受けるなんて、冗談じゃない。

「基本的には、雑用や資料整理が仕事ですよ」

「それで煮詰まったら私の体を触って、そのまま作品にするってことですよね!」

「ええ、主人公カナコは、アラサーの処女。まさに君と重なります」

嬉々として語り始めた課長は、くるりと椅子を回転させて私に向き直った。

「それだけじゃない。君が僕に下した、作家としての評価。あれは非常に的を射ているんです」

「評価? 私、なにか言いましたっけ」

「ほら、『人に興味がないくせに』と――」

「ああ……確かに。だから無駄に着飾った表現で誤魔化したり、こんな手段を使うしかないんですね」

「ふふっ、さらに辛辣なご意見」

最大限の嫌味にもノーダメージだったようで、ケロリとした様子で、薄く笑った課長。

「おっしゃるとおり、僕は人に興味がありません。まあ、だからこそリストラができるんでしょうけど、作家としては致命的です」

「なら、やめればいいじゃないですか。会社のお給料だけで、十分に生活できるでしょう」

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