桜田課長の秘密
世の中には、微笑みひとつで女を骨抜きにする。
そんな男がいるものだと聞いたことがある。

彼はきっと、そういったたぐいの……
もしかしたら私は、とんでもない選択をしてしまったんじゃないだろうか。

押し寄せる不安に、ブルリと身を震わせたときだった。

「巴ちゃん」

「ひやっ!」

背後から肩を叩かれて、飛び上がる。

「え、あ……ごめん、脅かしちゃったね」

振り返ると、相田さんが申し訳なさそうな顔をして両手を合わせた。

「いえ……こちらこそすみません」

「なに見てたの?」

言いながら室内を覗き込んだ彼が『ああ、なるほど』と意味深にうなずく。

「あの噂……本当だったんだ」

「噂……?」

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