桜田課長の秘密
「お暇そうですね。TENスタッフサービス、橋田ルミさんと――」

こ……この嫌味な言い回しと冷めた口調。

振り返るまでもなく誰だか分かった。

「江本……巴さん?」

バレた、後ろ姿でバレてしまった。いや、疑問形だったからごまかせるかもしれない。

「江本? ……誰でしょう。私、営業の〝田中〟は急ぎますので、ごきげんよう」

背中を向けたまま後退して、すれ違うのと同時に方向転換。自衛官なみに機敏な身のこなしで、一目散に給湯室を逃げ出した。

ルミさんには悪いけど、なりふり構っていられない。正社員になるためにも、評価を落とすワケにはいかないのだ。

全力疾走でデスクに戻って、そっとふり返る。

流石に追っては来なかったか。

ホッと胸を撫でおろした――のもつかの間。
新たな火種が大手を振ってやって来た。

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