桜田課長の秘密
一瞬にして、唇が渇いた。

からからの喉をかすめて、ヒュウ―と気味の悪い音色の息が漏れる。
反対に、助けを乞う声はお腹の奥に沈み込んだ。

「いい表情ですね、本当に君はヒロインにふさわしい」

そうだ、これは仕事だ。
今だけは巴ではなく、彼の描き出すカナコという女なんだ。

逃げられないことを悟った私は、ギュッと目を閉じて、心の中でそう繰り返した。

「ひあっ!」

突然、首筋に走った甘い痺れに、体が跳ねる。

「ああ、やっぱり驚くほど敏感ですね」

「な……なにを……したんですか」

目を開けると『秘密です』と、楽しげに笑った彼に抱き起された。
背中に回された熱い手が、服の上から私の背中を撫でまわす。

その熱が伝わったのだろうか。
背中を触られているだけなのに、急速に熱を帯びる身体。

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