最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「一応?」

「……歳が離れているの。あまり、仲も良くないから」

(初めからそうだったわけではないけれど……)

 また、未練がましく想いを馳せる。

 晴れた日には姉の手を引き外へ連れ出してくれた。小さい背中でいつも前を走っていた。大切な家族。大好きな弟

 でもあの頃にはどうしたって戻れない。お互いに別々の年月を重ね過ぎてしまった。

(止めましょう)

 メレはまたいつものように記憶に蓋をする。

「なあ、アイス食べないか?」

「は?」

 脈絡のない誘いに耳を疑う。何か聞き逃していただろうか。

「食べたくなった。付き合えよ!」

 オルフェは返事も聞かずに走り出す。おそらく脈絡はない。

「ちょ、ちょっと待って、待ちなさい!」

 不遜なばかりのオルフェが悪戯っ子のように手を引く。強引さに踏み止まる隙も与えてくれない。
 前を行く背中はかつての弟と重なるようで、懐かしさに振り払えなかった。そこにいるのは弟ではなくランプを奪った張本人なのに。
 同一人物なのかと錯覚させるほど無邪気なオルフェの笑顔がメレから毒気を抜いていた。早くと手を引かく様子は子どもじみていて、ようやく彼が歳下だったことに納得がいった。
 ならば弟の面倒をみるのも姉の努めか、仕方ないとメレは転ばぬよう速度を上げていた。

(――って、こんな弟ごめんだけれど! 急に走り出すなんて何なの!?)

 勝負ばかりではなく私生活でも振り回されるなんて憂鬱すぎる。おかげですっかり考えが逸れてしまった。

(まさか……)

 一つ思い至ったのは話題を変えてくれたという気遣いである。自由な手で頬に触れれば、わずかに強張っているように感じた。

「甘い……」

 それはアイスか自らの行動か。複雑な心境を知りもしないオルフェは遠慮もなしに「美味いだろ?」と訊いてくる。
 好きな味を主張する間もなく差し出されたストロベリーは先日市場の店主に勧められたものだ。溶けないうちにと急かすオルフェも同じアイスを手にしている。
 甘酸っぱいストロベリー、冷たいそれは息の上がった体を冷ますには丁度良い温度だ。
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