異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
 * * *

「それでは、お店のこと、よろしくお願いしますね」
「かしこまりました。お祭りと生誕祭の準備、がんばってくださいね」

 王宮から手伝いに来てくれた、年配の料理人さんに頭を下げる。
 料理人さんは本当に、うちの店のスイーツだったらなんでも作れ、引き継ぎがとてもスムーズだった。「エリーさんのレシピ、新しいのを頂戴するたびにみな我先にと作り始めるんですよ。宮廷料理人は、みんなエリーさんのファンなので安心してください」と言われ、照れくさかった。

 数日かけて開店作業や閉店作業を教え、いよいよ今日からお城の厨房に出仕することになったのだ。
 前回、騎士団を尋ねたときは裏門から入ったが、今日からは正門を使っていいらしい。馬車がゆうにすれ違える幅の、堀にかかった跳ね橋を徒歩で渡り、門番さんの前に立つ。

「エリーゼ・ホワイトです。今日から厨房に出仕することになっています」

 みつあみエプロンドレスの庶民をいぶかしげな目で見ていた門番さんだったが、私が名前を告げると相好を崩した。

「ああ、あなたが。殿下から聞いていますよ。どうぞお入りください」
「ありがとうございます」

 頭を下げて門番さんの隣を通り過ぎたのだが、はたと気付いて振り返った。

「あ、あの……」
「はい?」
「厨房に行くには、どの玄関からお城に入ればいいのでしょうか。正面の扉はさすがに、使えないですよね」

 アルトさんに地図をもらってはいたが、玄関口がたくさんあってわかりづらい。門から一番近い正面玄関が開くのは、王族が訪問したときくらいだということは知っている。従業員のためにわざわざ重い扉を開けたりはしないのだ。

「ああ、それでしたらお城に沿ってずーっと右側を進んでもらうと、しばらくすると木でできたこぢんまりした扉があるはずです。それが厨房に直接続いている扉ですよ。壁に換気口がついていて、いつもいい匂いがしているからわかりやすいはずです」
「ありがとうございます」

 親切な門番さんにお礼を言い、私はお城の敷地に足を踏み入れた。

「ここがその、木の扉だよね」

 換気口からおいしい匂いが漂っているから間違いないだろう。思わず、口の中がつばでいっぱいになる。そういえば、もうすぐお昼の時間だった。
 門番さんは、直接厨房に通じていると言っていたが、ここを開けたらいきなり厨房がばーんと現れるのだろうか。人もたくさん働いているだろうし、さすがに緊張する。

「……よし!」

 いつまでもこうしていても仕方ない。私は覚悟を決めて、扉をノックした。
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