カナシミモンスター
***
だけど、小学校に入ると仲間はずれはいじめへと変わってしまった。
きっかけは図書館にあった一冊の絵本だったけれど、本当はいじめる理由なんて理由になりさえすれば、何だって良かったのかもしれない。
『ねないねないこ、くぅ』
その絵本は、"くぅ" という名前のモンスターが、夜更かしをする子どもの前に現れて、その子の夢を食べて眠れないようにしてしまうという、子どもにとっては、ちょっとだけ怖いお話だった。
"くぅ" の姿形は影みたいに真っ黒でちっちゃいのに、人間と同じ形をしていて頭も手も足もある。だけどお尻には猫みたいな尻尾が生えていて、体は夢を食べる度にどんどん膨らんで大きくなっていく。食べられた夢を元に戻すには、クネクネ動くしっぽを捕まえてギュッと握らないといけない。
そんな"くぅ" の瞳は緑色。俺の瞳と同じ色だった。
誰かがその本の話をしたその日から、男子たちは「くぅに夢を食べられるぞ!にげろー!」と言いながら、逃げ回るどころか、逆に俺が追いかけ回されて教室から叩き出され、女子たちにはしっぽを捕まえろと言われて囲まれて、ズボンやパンツまで下げられて「あれ?ひろみって、おとこのこだったのー?それとも、それがしっぽ?」と、股を指指されて笑われた。
『人と違っていても自信を持ちなさい』と言ってくれた祖母は、小学校に入る直前に亡くなっていた。心の支えを無くし、いじめが怖くて学校に行けなくなった俺を救ってくれたのは、幼馴染みの樹里だった。
『じゅりのおへやまでむかえにきたら、ひろみといっしょにがっこうにいってあげるね』
不登校になった理由だって知っていたはずなのに、どうしたの?何があったの?なんて一度も聞かれなかった。そして、いじめた子たちにも何も言わず、樹里はただ黙って俺だけに手を差しのべてくれた。
女子にまでいじめられたのが恥ずかしかったのを誰にも知られたくなかったという、男としてのちっちゃなプライドを、同い年だった樹里がどれだけ理解してくれていたのかは、今でも分からない。
だけど、俺の心は救われた。心が悲しみに染まる前に樹里が助けに来て守ってくれた。
その日から樹里は、俺のヒーローになった。
だけど、小学校に入ると仲間はずれはいじめへと変わってしまった。
きっかけは図書館にあった一冊の絵本だったけれど、本当はいじめる理由なんて理由になりさえすれば、何だって良かったのかもしれない。
『ねないねないこ、くぅ』
その絵本は、"くぅ" という名前のモンスターが、夜更かしをする子どもの前に現れて、その子の夢を食べて眠れないようにしてしまうという、子どもにとっては、ちょっとだけ怖いお話だった。
"くぅ" の姿形は影みたいに真っ黒でちっちゃいのに、人間と同じ形をしていて頭も手も足もある。だけどお尻には猫みたいな尻尾が生えていて、体は夢を食べる度にどんどん膨らんで大きくなっていく。食べられた夢を元に戻すには、クネクネ動くしっぽを捕まえてギュッと握らないといけない。
そんな"くぅ" の瞳は緑色。俺の瞳と同じ色だった。
誰かがその本の話をしたその日から、男子たちは「くぅに夢を食べられるぞ!にげろー!」と言いながら、逃げ回るどころか、逆に俺が追いかけ回されて教室から叩き出され、女子たちにはしっぽを捕まえろと言われて囲まれて、ズボンやパンツまで下げられて「あれ?ひろみって、おとこのこだったのー?それとも、それがしっぽ?」と、股を指指されて笑われた。
『人と違っていても自信を持ちなさい』と言ってくれた祖母は、小学校に入る直前に亡くなっていた。心の支えを無くし、いじめが怖くて学校に行けなくなった俺を救ってくれたのは、幼馴染みの樹里だった。
『じゅりのおへやまでむかえにきたら、ひろみといっしょにがっこうにいってあげるね』
不登校になった理由だって知っていたはずなのに、どうしたの?何があったの?なんて一度も聞かれなかった。そして、いじめた子たちにも何も言わず、樹里はただ黙って俺だけに手を差しのべてくれた。
女子にまでいじめられたのが恥ずかしかったのを誰にも知られたくなかったという、男としてのちっちゃなプライドを、同い年だった樹里がどれだけ理解してくれていたのかは、今でも分からない。
だけど、俺の心は救われた。心が悲しみに染まる前に樹里が助けに来て守ってくれた。
その日から樹里は、俺のヒーローになった。