カナシミモンスター
"ぼく" のヒーローだった樹里は、明るくて、素直で、優しくて、可愛くて、みんなの人気者だった。

きっと家が向かい同士だから、親同士が仲が良いから、樹里ちゃんは仕方なくあんな気持ち悪いヤツと一緒にいるんだ。


不登校を克服してから、目立ったいじめは無くなったけれど、こんな言葉を何度、樹里の陰で同級生に言われたか分からない。


そう言って"ぼく"を睨みつけている時の同級生達の()は、樹里と同じ()の色をしているはずなのに、モンスターと同じ()だと言われた僕の()よりも、とてもとても怖いものに思えた。


『もし、みんなの言うことが本当だったら……じゅりちゃんが、もしみんなみたいにこわい目でぼくを見てきたら……』


想像しただけで恐ろしくなって、ある時、樹里に「じゅりちゃんは、ぼくの目がきもちわるくないの?」と聞いてみた事がある。


樹里は俺の質問を聞いて、最初は意味が分からないと言った感じで、きょとんとしながら首を傾げていた。


だけど、何かに気がついた様子でハッとすると、それから俺に近づき、手を伸ばして俺の両手をギュッと力を込めて掴んできた。


「ひろみの目はキレイだよ!だれよりも、いちばんキレイ!!ひろみの目も、ひろみもきもちわるくなんかないよ!!」


「ひろみは、じゅりのともだちだからね!ともだちを、きもちわるいなんてぜったい思わない!」


悲しくなるからそんな事聞かないでと、たれ目がちな可愛らしい()からポロポロと涙を溢して、樹里は俺を怒った。だけど、泣きながらも、その()は逸らさずに、ずっと俺の()を見つめていた。


その()が、『心を悲しみでいっぱいにしないで』と、『人と違う事は悲しむ事じゃないの』と俺に言った時の祖母の()と重なった。


樹里は俺のヒーローだと、純粋に憧れ、あんな風にみんなから好かれる存在になりたいと、そう思っていた俺の心に、彼女を慕う以上の心が生まれたのは、たぶんその出来事がきっかけだったと思う。



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