ノクターン

「ただいま。」

と部屋に入った智くんは、キッチンの隅に積み上げた箱を見て
 
「どうしたの?」と聞いた。
 

「私の荷物 まとめてみたの。」
 
「麻有ちゃん、偉いね。」

と智くんは 抱きしめて頭を撫でてくれる。
 


「今日、ミーティングの後で 上司に麻有ちゃんの事 話したよ。」

夕食を食べながら、智くんは言う。

私は頬を紅くしてしまう。
 


「麻有ちゃん、仕事 どうする。」

それを私も 悩んでいた。
 
「辞めたほうがいいのかな?」

私は不安気に聞いてみる。
 

「麻有ちゃんが 大丈夫なら続けていていいよ。辞める理由もないでしょう。」
 
「家事とか、十分にできないから。智くんにも迷惑かかるかなって。」
 
「今と同じでいいよ。俺は、大丈夫だよ。麻有ちゃんと 仕事帰りにデートもできるし。今、仕事辞めても 退屈でしょう。」
 


「智くんが良ければ 私は続けたいなあ。やっと入った会社だし。辞めるのは いつでもできるから。今のうちに、少しは貯金もしたいしね。」

私の言葉に智くんは微笑む。 
 
「仕事と家事、大変かもしれないけど 協力するからね。子供ができたら考えようね。」
 
「ありがとう。私も、明日 上司に結婚の事話すね。でも、指輪しているから みんな薄々は 感づいているの。」


私は 智くんの胸に顔を寄せて言う。

智くんは、私の指輪に触れながら 
 
「これが、牽制になったか。麻有ちゃんの虫避けだね。」と笑った。
 

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