ノクターン

「年末年始の休みは、暖かい所でゆっくりしようか。」

私の肩を抱いて、智くんが言う。
 
「うん。どこに行くの?」

私は、智くんを見上げて聞く。
 

「麻有ちゃん、パスポート持っている?」
 

「えー。海外?」

伊豆周辺の温泉旅行をイメージしていた私は、歓声を上げる。
 

「持っているよ。卒業旅行の時に取ったから。まだ期限は大丈夫。」

私の笑顔は、弾けていたと思う。

智くんも、満足そうに微笑む。
 

「サイパンはどう。フライトも短いし、ハワイやグアムみたいに混んでいないから、ゆっくりできるよ。」

智くんは、私の頭を撫でながら言う。
 

「嬉しい。行きたい。」

私は、智くんの胸にもたれる。
 


「麻有ちゃん、水着 着るんだよ。楽しみだな。」

智くんは、私の顔を両手で包むと
 
「恥ずかしいよ。」

と言う私にキスをした。
 

「今からでも、予約 大丈夫?」

年末休暇まで あと2週間しかない。私は、急に心配になる。
 

「明日、知り合いの旅行会社で 予約しておくね。」
 

私は 智くんの首に、両手を巻きつけた。
 

「そうだ、明日は 帰りに結婚指輪を買いに行こうね。」

智くんは言う。
 


「うれしい。」

私の語尾は甘く滲む。
 
 
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