ノクターン

食事の後も 私達は送迎を使わずに ブラブラ歩いてホテルに戻る。


この街の空気に たくさん触れたくて。



サイパンは 想像していたよりも素朴で 穏やかな街だった。

ゆっくり歩いていると 幸せが込み上げてくる。
 


「のんびりするね。智くん、なんか幸せだね。」

繋いだ手を振りながら、私が言う。
 

「時間が ゆっくり流れている感じでしょう。心の中まで温かくなるね。」


智くんは、多分 私の言いたい事を理解していた。
 


「このまま、ずっと歩けそうな気がする。」
 

「うん。麻有ちゃんと一緒ならね。」


私達の旅は、はじまったばかりで。
 


ホテルに戻った私達は バルコニーの椅子で夜の海を見る。
 


「明日は、あの海に入ろうね。」
 
「綺麗な海。入るのが、もったいないくらい。砂浜も。白いね。」
 

「少し沖まで行くと、魚が泳いでいるよ。」
 
「信じられないなあ。」

私は ぽつんと言う。
 
「本当に、魚いるんだよ。」
 

「違うの。今、ここに二人でいる事が。夢みたいで。信じられないの。」


美しい景色と 愛する人と。

穏やかで幸せな時間。


もしも別の誰かと ここに来ても こんなに満ち足りた幸せな気持ちには ならないと思う。
 


「夢かも。二人が、死ぬまで覚めない夢だよ。」
 

サイパンの夜は、甘く閉じていく。

 
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