ノクターン

「そう言えば、智之達さ。昔、タイムカプセル埋めてなかったっけ。」とお兄様が言う。

食事の後、ゆっくりお茶を飲みながら。


私は 智くんと顔を見合わせる。



二人で 手繰り寄せる記憶。

何となく 思い出す。
 


「あー。埋めたかも。兄貴のまねして。」
 

「そうそう。俺が、卒業の時に 埋めた話しを聞いて。軽井沢に埋めたって言っていたんだよ。」

私も思い出す。


ディズニーランドのクッキーの缶に 何かを入れたような。
 


「まだ、あるかな。」智くんが言う。
 
「掘ってなければ、あるだろう。何入れたの?」
 
「埋めた記憶はあるけど。中に何入れたかは 全然覚えてないよ。麻有ちゃんは?」
 

「なんか、木の実で作ったネックレスを 入れたような気がする。」

私も 確かな記憶がない。
 

「掘ってみなよ。」

お兄様が 楽しそうに言う。

私達は、頷く。
 


「幼なじみっていいわね。」お姉様が言う。
 

「ずっと 一緒にいた訳じゃないんだけどね。」


と智くんは 私を見ながら言う。

私も頷く。
 


「だから、新鮮でいいんじゃない。」

お姉様の言葉に 私達は ニコニコと笑う。
 


「明日 軽井沢に行ったら 教会も見て来てよ。結婚式の事も そろそろ決めないとね。」


お母様が言う。

温かい眼差しで。
 

「パンフレット見たよ。素敵な教会だったね。いい式ができるよ、きっと。」

お父様が言ってくれる。
 

「ありがとうございます。何から何まで。」

私は、感謝で涙ぐむ。
 


「麻有ちゃん、可愛い花嫁さんになるでしょうね。」お姉様に言われて
 
「沙織も、可愛かったよ。」とお兄様。
 

「何よ、紀之まで。智之につられて。」

と言うお母様の言葉に みんなで笑う。



楽しくて 穏やかで 幸せな 


廣澤家での お正月だった。


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