ノクターン

智くんは、田舎風のお節料理も 美味しいと食べてくれる。
 

「そう言えば、子供の頃 そうめんとかおにぎりとか、ごちそうになったよね。」

と智くんが言う。
 

「そうね。別荘の子に こんな食事でって思ったのよ。でも、智くん 美味しいって食べてくれたのよね。」と母も言う。
 


「お姉ちゃん、ずるいよ。私が保育園に行っている隙に。」

妹の言葉に、みんなで笑う。
 

「美奈ちゃん、彼はいないの?」

と智くんが聞く。
 

「全然、出会いがないの。同僚は女子ばかり。あとは父兄でしょう。保育士なんて なって損したわ。」

妹は膨れて言う。
 


「美奈ちゃんは 可愛いから大丈夫よ。美奈ちゃんが 軽井沢で就職してくれたから。私も安心して 東京に居られるの。美奈ちゃんには 感謝しているのよ。」


私は 今まで一度も言えなかった事が 素直に言える。
 


「幸せいっぱいの人に 感謝されてもね。じゃあ、今度 東京案内してね。お姉ちゃんは 私の自慢だからさ。」

妹も 初めて聞く言葉で。

私は 胸が熱くなる。



智くんのおかげで、心の中の氷が解けていく。
 


「いつでも来てね。私達の部屋見たら 美奈ちゃん、また羨ましくなるわよ。雑誌に載っている部屋みたいだから。」
 

「えー。これだから お金持ちはイヤなんだよね。」と妹が言う。
 


「そんな事ないよ。麻有ちゃんが いつもきれいにしていてくれるから。お父さんとお母さんも 是非来て下さい。」

智くんが言ってくれる。
 

「美奈子は 整理整頓ができないから。お姉ちゃんの部屋見て 見習うといいよ。」と父も笑う。
 


「結局、私か。」


私の家族との時間も、温かく過ぎていく。
  

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