ノクターン

久しぶりのマンション。

サイパンから帰って、翌日に軽井沢に行ったので 随分、長く空けていたような気がする。
 

「うーん、やっぱり落ち着くね、家は。」

伸び伸びと寛ぐ智くん。
 


「お母様、あのお手紙 驚いていたね。」

私は そっと智くんに寄り添って言う。
 
「俺達の絆だから。あんなに小さな頃からの。」

智くんは 私を甘く包むように抱く。
 


「智くん 私と会えるまで寂しかった?」


お母様の言葉を思い出して 私は聞く。
 

「そうだね。何をしても 夢中になれなかったなあ。麻有ちゃんといた時の 充実感が忘れられなかったんだ。」
 

「私も同じ。パパとママにも 随分辛く当たってしまったなあ。」


智くんが、お母様に 素直に言っていた言葉を思い出す。
 


「麻有ちゃんと一緒にいると 心が落ち着くよ。親にも 素直に感謝できるようになったし。麻有ちゃんのおかげだよ。」

智くんは 私の髪に顔を寄せる。
 
「私も。昨日、美奈ちゃんに ありがとうって言えたし。美奈ちゃんが、自慢のお姉ちゃんって言ってくれたの 嬉しかった。」
 


「俺達が出会えたことで みんなが幸せになるね。」

智くんの言葉に 私は涙汲んでしまう。



私の幸せは、すべて智くんだから。


そして智くんも 同じように思っていることが嬉しくて。
 


「今まで生きてきて、本当によかった。」

私がぽつんと呟くと
 

「麻有ちゃん。」

と言って、智くんは私を抱き締めた。

 
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