ノクターン

「麻有ちゃん。ドレスの仮縫いの時、お父さんとお母さんにも 見て頂きたいわね。」

お母様の言葉に 父と母は 驚いて顔を見合わせる。
 
「そうだね。俺達のマンションも 見てほしいし。」

智くんも言ってくれる。
 


「麻有子から、ドレスを作って頂いたって聞いて。それだけでも 十分幸せなことなのに。麻有子だけじゃなく 私達にまでお気遣い頂いて。」

母は とても感激していた。
 
「麻有ちゃん、可愛くて。ついつい私達が 連れ回しちゃったけれど。今思えば ドレスは ご両親と一緒に決めたかったんじゃないかなって反省しているの。」

お母様の思いやりに 胸が熱くなる。
 


「そんな事ないです。私、みんなに選んで頂けて 本当に嬉しいんです。大切な物だから みんなの意見が聞けて すごく安心しました。それに みんなと居ると楽しくて。みんなに可愛がって頂いて 本当に幸せなんです。」

私は、いつになく強く言う。
 

「本当に。麻有子、ありがたいね。こんなに良いご両親で。せっかくだから、一度 東京に行かせてもらおうか。」

父が母に言う。
 

「そうね。麻有ちゃん自慢の 愛の城を見せて頂きましょうか。」

母の声も 少し潤んでいた。
 


「あの部屋 麻有ちゃん自慢なの?」

お父様が聞いてくれる。
 
「そうだよね。麻有ちゃん すごく大事にしていて。いつもきれいにしているよ。」

智くんが 私を見て言う。
 


「だって。本当に素敵な部屋だから。綺麗にしないと 罰があたるわ。」
 


「麻有ちゃん、本当に可愛いんです。」

智くんが 私の父と母に言う。
 


「私達も、誰でもいい訳じゃなくて 麻有ちゃんだから 可愛いと思えるんですよ。麻有ちゃんは こうして いつも感謝の気持ちを持ってくれる。本当に良い子です。」



お父様の言葉に 私は涙が滲んでしまう。




みんなの前なのに 智くんは そんな私の手を そっと握ってくれた。 


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