ノクターン

お父様は 決して高圧的な態度をしない。

食事に行ったお店の人にさえも。
 

「ありがとうございます。何から何まで お気遣いいただいて。本当に、麻有子は幸せです。」

家の格が違うことさえ 全く感じさせない気づかいで。
 

「こちらこそ。麻有ちゃん、とても良い子で。こんなに大切に育てられたお嬢さんを 手放されるわけですから。うちでも、大切にさせて頂きます。」

お父様の言葉は、本当にありがたい。
 

「本当に、ありがとうございます。」


父は、神妙にお礼を言った。


父も母も、こんな日が来ることは 想像できなかったと思う。


もちろん、私も。


智くんと再会するまでは。
 

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