ノクターン

「ねえ、聞いてもいいかな。」

お兄様が 遠慮がちに言う。
 

「なに?」と智くんが答えると、
 


「二人はさ。再会するまで 10何年も全然会ってなかった訳じゃない。大人になってから急に会って イメージが違ったとか
違和感があったとか、そういうの なかったのかなと思って。」


お兄様は 言葉を選びながら 丁寧に聞いてくれる。


智くんと私は 顔を見合わせて 首を傾げる。
 


「俺は、無かったな。大人になった麻有ちゃんは 想像していた以上に 思ったとおりだったよ。会ってすぐに 今まで 感じた事のない気持ちになったよ。」

智くんは、私の言葉を待つ。
 

「私も。智くんは智くんのままでした。一緒にいればいる程、今の智くんを好きになりました。」

照れながら でも正直に言う。
 


「そんな事ってあるの。大人になってからの10何年ならともかく。二人とも子供だったんだよ。外見もそうだし、中身も成長している訳じゃない。幻滅したりしなかったのかなって 思うんだよね。」

お兄様は まだ納得できないようで。
 


「私、智くんと会うまでの方が 自分に違和感があったから。いつも何か足りないような気がしていて。智くんと会って やっと自分に戻れた気がしたんです。」

私は 一生懸命説明する。
 


「智之もそうだったわ。自分で壁作っていて あと一歩 踏み込ませないような。」

お母様が言うと
 
「ああ、確かに。」

お兄様は 大きく頷く。
 


「どう言えばいいかな。うーん。今まで、違うジグソーパズルを はめていたような感じ。麻有ちゃんと会って、初めて正しいピースが入って自分の人生が始まったんだよ。だから、麻有ちゃんに失望するとか そういう次元じゃないんだ。麻有ちゃんがいて 俺なんだよ。麻有ちゃんの存在が すべてなんだ。」



智くんの言葉に 私は顔を覆って泣いてしまった。

智くんは もう一度、肩を抱き寄せてくれる。
 


「すごい。素敵。」

お姉様の声も 少し震えていた。
 
「うん。感動しちゃうわ、我が子ながら。親の前で 言っちゃうあたりもね。」

お母様の声も 少し湿っていた。
 


「だから 素直になったって 言っているでしょう。これが俺なの。」

智くんは 少し照れた声で言う。
 


「みんなで 麻有ちゃん泣かせて。仕方ないなあ。」

お父様の言葉に 私は顔を上げる。
 

「もう大丈夫です。うれし涙だから。」
 
「どうですか。この二人の熱々ぶりは。」

とお兄様に言われ、
 
「夕食は、智之のおごりでしょう。」

お母様が笑う。



私達は、温かい愛に包まれている。

素敵な家族。


大人になってから 自分の親の前でさえも 泣いた事なんてないのに。

こんなにも私は 素直になれる。



安心して自分を見せられる。


愛に包まれているから。
 
 

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