ノクターン

結納式は、あまり形式張らずに 温かい雰囲気で行われた。


その後、家族揃っての食事会になる。


智くんのご両親の気遣いで 私の両親も打ち解けていく。

樹くんは 今日もご機嫌で 妹に抱かれて笑っている。
 


「さすが、プロは違うね。人見知りするのに。美奈ちゃんには すぐに懐いて。」

お兄様の言葉に 嬉しそうな妹。
 

「でも、保育士って損な仕事です。いくら可愛いがっても、親には勝てないんです。」
 

「美奈ちゃんも、ママになるとわかるわ。親って 保育士さんより ずーと大変よ。」

お姉様は 笑いながら言ってくれる。
 


「沙織さん ご実家はどちらですか。」母が聞くと
 
「東京の杉並です。」とお姉様は言う。
 

「やっぱりね。都会的だと思った。」

妹は すっかり お姉様のファンになっていて。
 

「それじゃ、結婚するまでは ずっとご実家ですね。」

と母が言う。
 


「でも私 今はあまり実家には 帰らないんです。」

お姉様は フッと笑いながら言う。
 
「あら、どうして?」母が聞くと
 

「私の父は すごく気難しい性格で。小さな頃から 父が帰って来ると家の中がピリピリするんです。食事も父は みんなと別に食べるような人で。家に父がいると みんな緊張して。だから今でも 帰りたいと思わないの。」

初めて聞く お姉様の話しだった。
 

「良いお父さんよ。厳格なだけ。心は同じよ、親だもの。」

お母様は やっぱり優しい。
 

「はい。最近、少しわかります。自分も親になって。父が、不器用な人なのだって。でも、小さな頃からの習慣で。父がいると寛げないし。帰りたいと思わなくて。つい、廣澤の家に来てしまいます。」

とお姉様は 続けた。
 

「廣澤のお父様とお母様は 本当に温かくて優しくて。私の事も麻有ちゃんの事も 実の娘みたいに思って下さって。私、結婚してやっと 家族を持てた気がします。紀之さんも、なんでも話合おうって言ってくれますし。」


お姉様は 私の両親を安心させる為に 自分の事を 話してくれたのだと思った。



深い優しさを感じた。




この先、このお姉様となら 力を合わせて 廣澤家を守っていきたいと 私は強く思った。
 

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