ノクターン
45

帰りの車の中も、賑やかで楽しくて。
 

「麻有ちゃんのご家族 温かくて。だから麻有ちゃん 素直なのね。」お姉様は言う。
 
「でも私、家を出るまでは 家族のありがたさが わからなくて。父や母にも素直になれなかったんです。」

中高生の頃の自分を思い出し 反省する私。
 


「そうなの?明るくて 仲の良い家族なのに。」

お姉様は 不思議そうに言う。
 


「だいいち 軽井沢が嫌いだったんです。なんで私は 軽井沢にいるんだろうって思っていて。ずっと不満だったの。」
 

「軽井沢、良い所なのに。何がいやだったの?」

お母様が聞く。
 
「軽井沢って 遊びに来るだけの場所で。みんな 別の場所に生活があって いつか帰ってしまうんです。智くんも。」

私は うまく言えなくて。
 

「あ。大学の友達で 実家が熱海で旅館をしている子がいたの。その子も 同じような事 言っていたわ。」

お姉様は言う。
 
「お客さんと仲良くなって 自分はずっと覚えていても 相手にとっては ただの通りすがりで。それがすごく寂しかったって。」
 


「そうなんです。私 帰る智くんを見送る事が すごく辛かったの。私は軽井沢がすべてなのに。智くんは 東京に別の世界があって。私 東京の智くんのことは 何も知らなくて。」
 

「俺だって 軽井沢に麻有ちゃんを 残して帰るの イヤだったのに。」

智くんが言う。
 

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