ノクターン

私がどれほど幸せかを 父と母は感じていたと思う。


満ち足りた 豊かな生活。

何も欠けていない 私の幸せ。


それは、父と母の幸せでもある。
 


「せっかくだから、少し出かけませんか。」


昼食の後で、智くんは 両親に聞く。
 
「ちょっと新宿のデパートに行かない?智くんと私から 美奈ちゃんに誕生日のプレゼントをしたいから。」

と私が言う。

来週、妹は誕生日だった。
 


「行く、行く。何か買ってくれるの?うれしい。」

智くんと私は 顔を見合わせて笑う。
 

「パパとママも付き合ってね。」笑顔で頷く父と母。
 

今日は 松濤の家にも 寄る予定だったので ゆっくりは出かけられないけれど 智くんは、色々考えてくれた。


妹にプレゼントをと言ってくれたのも 智くんだった。
 

「美奈ちゃんは、戸籍を送ってくれたり 結婚式場のパンフレットを取ってくれたり。色々、協力してくれたからね。俺の妹になるわけだし。」


智くんは 私の家族を とても大切に思ってくれる。
 
「ありがとう。美奈ちゃん もうすぐ誕生日だから。喜ぶわ、きっと。」

私の心も温かくなる。



「麻有ちゃんが選んで買っておくよりも 一緒に買いに行く方が楽しいでしょう。美奈ちゃんの好きな物を 選べるし。」
 
「美奈ちゃん、遠慮しないから。高くつくわよ。」私が笑う。
 
「初めての事だし いいよ。」智くんは優しい。
 
「ありがとう。喜ぶわ。」


智くんの温かな心遣いが、私の胸に沁みる。
 
 
< 235 / 270 >

この作品をシェア

pagetop