ノクターン

「美奈ちゃん。私達の結婚式に 振袖着てくれる?」

ふと思い出して 私が言う。


娘二人だからと、私の成人式に 誂えてもらった振袖。

当然、妹も成人式には それを着た。
 

いつでも、妹は何も言わずに 私のお下がりを着ていた。


3才違いだから、中学校の制服や体操服も。

今思えば 酷な事だった。

わがままなようで、自由奔放なようで、妹は私よりもずっと親思いな娘だ。
 


私は、今まで そんな事にも気付かなかった。

親不孝な娘。


少しくらい勉強ができても 大切な事を何も見ていなかった。
 


大学生の頃 軽井沢に帰って 振袖を選んだ日を思い出していた。


妹も着るからと 二人で色々 合わせてみた事を。

父と母が 私達に買ってくれたあの振袖を 私は どうしても、妹に着てほしいと思った。
 

「ママとも話していたんだよね。私は振袖着たいんだけど。チャペルで変じゃないかなって。」


妹の言葉に、私は涙が出そうになる。

妹は、私の立場まで考えてくれていた。
 
「そうか。変かな。」

私は、少しがっかりして俯く。
 

「変じゃないわよ。素敵じゃない。紀之達の時も、チャペルだけど和装の方 いたわよね。」

そんな私に お母様は言ってくれる。
 

「はい。華やかになるから 私もお友達に頼んで 着てもらったわ。」

とお姉様も言ってくれる。
 

「よかった。パパとママが 私達に作ってくれた着物だから。お姉ちゃんの結婚式に着れたらいいなって思っていたの。」


この妹がいたから 父も母も 私を許すことができたのだと思う。

妹は 私の分まで 優しかったから。

『ごめんね。』今日 何度目かの言葉 、私はまた心の中で言った。
 

「ありがとう、美奈ちゃん。」


妹を見つめる私は きっと優しい表情をしていたと思う。


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