ノクターン

結婚式までの日々は 忙しく過ぎていく。


出欠の返事が揃い 本格的に席次を決める。

お父様の計らいで 東京から出席する方には 新幹線の往復チケットを送る。



私が 一人ずつ添える手紙を書き 智くんがそれを封筒に詰めた。
 

「麻有ちゃん、字が綺麗で助かったよ。」

私が書いた手紙を 丁寧に折りながら 智くんが言う。
 

「お習字習っていたから。智くんも上手だよね。お習字、習っていた?」

筆ペンを持ったまま 私も顔を上げる。
 
「俺も習っていたけど 真面目に練習しなくて よく先生に叱られたな。」

懐かしい目をして 笑いながら言う。
 

「どこに書いているのか ってくらい洋服は汚すし。」
 
「わんぱく坊主だね。」私も笑う。
 


「今は、パソコンだから。字が上手でも関係ないって思っていたけれど。こういう時に差がでるよね。」

智くんに褒められると とても嬉しい。
 

「少しでも 役に立てて良かった。」

私はにっこりと微笑む。
 
「可愛い。麻有ちゃん どんどん可愛くなっていくから。困るよ。」


智くんは そっと私の手に触れる。
 


「ありがとう。幸せだからかな。」

私は 筆ペンを置いて 智くんに手を重ねる。
 


「あと4枚だよ。頑張ろうね。」

智くんの手を握って言うと 智くんは優しい笑顔で頷いてくれた。
 



こんな穏やかな時間が 幸せで。

家族みんなと過ごす楽しい時間も 幸せで。



優しい顔になれて当然だと思う。


自分の心が どんどん優しくなっていくのがわかる。
 

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