ノクターン

レストランを出てエレベーターに乗ると
 
「山下公園まで歩こうか。」と、智くんは笑いかけた。
 


外に出ると、10月の風が火照った頬に気持ち良い。

自然と手を取られて歩き出す。

智くんの手を握った時に、私がずっと求めていたものは この手だったと思った。

今まで、誰と手を繋いでも こんな風に感じたことはなかった。

掌の大きさ、温度、握る強さ、すべてがぴったりくる。
 


他愛のない話しをしながら 港まで手を繋いで歩く。

仕事の事、家族の事、学生時代の事。

掌から癒されていくような感覚。

微かな潮の香りを感じると海が広がっていた。
 

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