ノクターン

「康平、突然でごめんね。私と別れてほしいの。」

飲み物が運ばれて 一息ついたところで私は切り出した。


一瞬康平の目が泳ぐ。
 

「何だよ、本当に突然だな。好きな人でもできたの?」

康平は、精一杯 冷静に受け止めようとしていた。
 
「ごめんなさい。偶然幼馴染と再会して。私その人のことが、ずっと好きだったことに気付いたの。」

私は、昨日智くんと会った事は言わずに 自分の気持ちを正直に話した。
 
「まだそいつと 付き合っている訳じゃないんだろう。付き合っても 上手くいくかどうか わからないじゃないか。黙って俺と二股かけて様子みるだろう、普通は。」

康平は諦めの顔で私を見た。
 

「そんなこと、できないわ。」
 

「麻有子は真っ直ぐだからなあ。でも、俺も悪いと思っているよ。忙しいからって 麻有子を放っておき過ぎたよ。今更言っても 遅いけどね。」

康平は アイスコーヒーを飲みほした。
 

「康平とは楽しい事が たくさんあったから。良い思い出だから。感謝しているよ。」
 
「俺はさ、麻有子の存在に支えられていたから、しばらくは落ち込みそうだよ。これから隆志でも呼び出して ヤケ酒飲むかな。でも日曜に言ってくれてよかったよ。一応 明日の仕事とか考えられるくらいは 大人になったからさあ。」
 

「本当にごめんなさい。今まで色々ありがとう。」

康平の、大人の対応に心から感謝していた。
 

「がんばれよ、麻有子。そいつとダメになって 俺のところに戻りたいって言っても その時俺がフリーとは限らないからな。」

康平の大らかな優しさに 私は救われた。
 


もしかしたら康平は 気づいていたのかもしれない。

私が今、智くんに感じているような 熱い思いを 康平には一度も持てなかったことを。

何日会えなくても わがままを言わない私は、物わかりが良いのではなく 会えなくても平気だということを。

だから、康平も徐々に 自分の予定を優先させるようになっていたのかもしれない。




微かな喪失感と、確かな解放感に 私は軽く身震いをした。
 

< 35 / 270 >

この作品をシェア

pagetop