ノクターン

私達が向かい合った六本木の焼き肉店は、おしゃれな内装で、個室風の座席になっていた。

智くんは くつろいだ表情で肉を焼きながら
 


「麻有ちゃん、今度の週末は 遠出しようか。一泊で。」と言った。
 
「うん。行きたい。」

智くんの意図している事を察して 少し照れながら答える。
 

「ゴルフのレッスンは何時まで?」
 
「ゴルフは、金曜の夜に変更できるから。土曜日は朝から大丈夫だよ。」

智くんが、私の予定を気にしてくれたことが嬉しい。
 


「それなら少し遠くまで行けるね。伊豆とか箱根でゆっくり温泉に入る?富士山とか東北方面でもいいよ。」
 

「うわあ、楽しみ。私、どこにも行ったことないから智くんが決めて。」

初めての夜を 旅先に選んでくれる智くんの思いやりに感動していた。
 


「宿題だね。最高のプラン、考えるね。」

焼けた肉を 私のお皿に取り分けながら智くんは言う。


智くんも美味しそうに肉を頬張る。
 


「あのね、今度 私が夕食作るから、智くん 食べに来て。」
 
「えー、いいの?麻有ちゃんの手料理?うれしいなあ。でも俺、麻有ちゃんを食べちゃうかもしれないよ。」
 
「智くん。」

私は頬を膨らませて、智くんを睨む。
 


若い男女が、愛を告げあったなら身体を求めてしまうのは 健康な反応だと思う。

智くんの思わせぶりな言葉も嬉しかった。


私も智くんに抱かれたいと思う。

もっと触れ合いたい、ぬくもりを感じたい、いつも一緒にいたい。


そんな思いでいっぱいだったから。
 

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