あなただったんだ
エレベーターで行くより、ここ、4階から8階の社員食堂に行くのは階段が早そうだ、と判断して、ダッシュで階段を上る。5階・・・6階・・・7階・・・8階

「ごめん、奈菜ちゃん!仕事が終わらなくて」

はぁ、はぁ、はぁ、と息を上げている豊を見て、愛しい想いが湧いてきた。

「分かってるよ。営業さんは、報告とか、大変でしょ。1時間は待つ覚悟だったよ」

奈菜は座っていた椅子から、ゆっくりと豊の方に進んでいく。

ぎゅっ。豊を抱きしめる。

「奈菜、ちゃん・・・?」

「私ね、同情とかじゃなく、豊くんが好きだよ。夏海さんの彼だったときから、すごい頑張り屋さんだな、って思ってた。そのときは、悠也もいたし、恋、ではなかったけど。営業成績もよくて、すごいな、って思ってた。」

「僕は、奈菜ちゃんの包んでくれるような優しさが、好きだ」

がしっ、と豊は奈菜を抱きしめなおす。

「このあいだの返事、もしかして、もらえるのかな?」

「うん・・・恋人としてつきあってください」

「い~~~やったぁ!!」

ぴょん、ぴょん、ぴょこ、ぴょこ、跳ね回る豊を見て、やっぱり可愛いなぁ、と思う。

「誓いのキス、していい?」

という豊。

「ここで?」

「誰も来ないよ」

「うん」

豊がちゅっ、と奈菜の唇にキスした。

「・・・だめだ、火がついた。もっと深いの、していい?

「えええ~?」

と言っていたら、豊が唇を合わせ、深く舌を絡ませてきた。

それを受けいながら、これからどうなっちゃうんだろ?と思う奈菜なのだった。

「やりすぎたかな?」

ちろっと舌を出す豊。

「もうもうもう・・・」

ぽこぽこぽこ・・・。豊の胸を優しくたたく奈菜だった。

「僕たち、これからだからね。もっと、いろいろ、あるよ」

「覚悟してる」

気がついたら、ほら、私はもうこんなに豊に夢中だ。

「とりあえず、夕食でも行こうか」

「だね」

ねぇ、豊くん。
もし、夏海さんより先に私に会ってたら。
私も、悠也より先に豊くんを知ってたら。
私たち、ちょっと回り道しちゃったけど、やっと始まったんだよね。
急がずに、私たちのペースで歩いて行こうね。
私には、あなただったんだ。
あなたには、私だったんだよね?

私、あなたが大好きです。

【The End】
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