授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
『菜穂、今日もお疲れ。そっちは問題ないか?』

今朝まで一緒にいたというのに、もうずっと長いこと会っていないような感じだ。涙声を悟られないようにひとつ深呼吸する。

「大丈夫ですよ」

『そうか、実は明日の午前中の予定が変わって少し早く帰れそうなんだ。早く菜穂に会いたい』

今、自分も同じことを思っていた。黒川さんの声を聞いて毅然とするつもりだったのに、また涙がじわりとこみ上げてきた。

「わ、たしも……です」

『菜穂? おい、どうした? 泣いてるのか?』

泣いていると悟られても自分の想いはちゃんと伝えたかった。様子のおかしい私の声に、黒川さんの声音が低くなる。

「……ごめんなさい」

『え? なんだって?』

「私……何も知らなくて、ごめんなさい」

『ちょ、待て、いったいなんの――』

もう限界だった。これ以上彼の声を聞いていたらきっと泣き出してしまう。だから電話の向こうで引き止める黒川さんの声を無理やり切るように通話終了をタップした。

「ごめんなさい……」

私はもう一度小さく呟くと、通話の切れたスマホをバッグの中へ押し込んでベッドに身を投げた――。
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