授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
そう言うと、黒川さんはなにからどう話そうか考えているようで、親指で何度も握った私の手を撫でた。

「そうだな、まずは妹のことから話すか。南雲が言っていたように真由は二年前に死んだんだ。元々心臓が悪かったし、ある日突然の発作だった。俺は今でも彼女に何もしてやれなかったと後悔してる」

でも今さら悔いてももう遅い。そんな言葉が後から続きそうなほど、黒川さんは真由さんを失って自分を責め続けていた。そう思うと胸がキュッと締め付けられる。

「俺の父親はウォルナーズホテルグループの代表をしているが、実は真由が死んでから一度も父親とは顔を合わせていない。絶縁状態なんだ」

「え? 絶縁って、お母様は……?」

「両親は離婚して母親は今どこで何をしてるのかわからない。俺の家庭状況もなかなか複雑だろ?」

自虐気味に鼻で笑うと黒川さんは肩を竦めた。

「父親とのことは、折を見て話そうと思っていたが……結果的に君に嫌な思いをさせてしまった。俺が悪いんだ。すまない」

私には母はいないけれど過保護で心配性の父がいる。なんだかんだ言って気にかけてもらえる唯一の家族だ。けれど、黒川さんは家族の温もりを知らない。その寂しさがひしひしと伝わってくるとやりきれない切なさがこみあげてくる。すまない、と言われて言葉にならなくて、私はただフルフルと首を振った。
< 157 / 230 >

この作品をシェア

pagetop