授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
こんな時間に仕事が終わるわけがない。それなのに、家にいるということは仕事を休んだとしか思えなかった。

「ああ、書類作成くらいなら家でもできるからな。坂田所長に事情を話して一日休みをもらった。ただの風邪だっていっても何があるかわからないだろ?」

「私のことを看病するためにわざわざ仕事を休んでくれたんですか?」

黒川さんはただでさえ忙しい人だ。一日休んだだけで仕事量が何倍にも増えてしまう。申し訳なくて肩を落とすと、黒川さんが優しく私の手を握った。

「俺がそうしたかったんだ。だから気にするな。それと……」

握った手に視線を落とし、一拍置いてから黒川さんが口を開く。

「昨夜の電話で君は、何も知らなくてごめんなさいって言ってたよな? それがどうしても気になって……坂田所長から話しは聞いた。南雲が余計なことを言ったようだな……すまない」

余計なことって、妹さんの真由さんが実は亡くなっていることですか?

真由さんの面影を追って私と婚約したことですか?

黒川さんがウォルナーズホテルグループ社長の息子だってことですか?

私はただのお飾り婚約者なんですか?

黒川さんに聞きたいことが堰を切ったように溢れ出す。けれど、それらは言葉になることなく頭の中で流れていくだけ……。

「体調が悪いのに話すような内容じゃないと思ってたが……」

「教えてください。もうだいぶ楽になりましたから、話くらいちゃんと聞けます」

「わかった」
< 156 / 230 >

この作品をシェア

pagetop