授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
ぐっと拳に力を入れて気合いを入れたそのとき、ひとりの若い男性客が店に入って来た。

「あ、黒川先生、いらっしゃい。今日もいつものあんパン? ちょうど今焼きあがったところなのよ」

「いつもすみません。ここのあんパン食べたら、ほかで食べられなくなっちゃって」

弥生さんの手にしているトレーには、こんがりと焼き目のついたまるっこい美味しそうなあんパンが綺麗に並んで載っている。

黒川先生? あ、この間の……。

黒のミドル丈のスプリングコートに細身のスーツがマッチして、長い足のラインが綺麗に見える。どこかの会社員だろうか、学生客の多い店だから余計に彼の出で立ちは目を引いた。嬉しそうに出来立てのあんパンを見る目が優しくて、無性にドキドキと胸が高鳴っていく。

前に通りがかったときも思ったけれど、その黒川先生の容姿は私のどストライクなイケメンだった。おまけに百八十はありそうな高身長だ。

この人が、黒川先生……。

指通りのよさそうな黒髪に笑うとほんの少し目尻が下がって、鼻筋も羨ましいくらいに綺麗に通っている。目、鼻、口とすべてのパーツのバランスがいいとはこの人のことをいうのだろう。

「じゃ、これください」

「あ、は、はいっ!」

あんパンがひとつ載ったトレーをレジカウンターに置くと、黒川さんがレジに立つ私の前でお会計をする。財布からお金を出すだけの何気ない仕草にさえ目を奪われてしまう。

「菜穂、ちょっと菜穂! なにぼさっとしてるの、レジ打って」

「あ、う、うん」

小声で聖子から催促されて我に返る。ぎこちない動きでお会計を済ませると、黒川さんがじっと高い位置から私を見下ろした。

「新しいバイトさん?」

「は、はい。あの、松下菜穂といいます。今日から、こちらのお店でお世話になることになって……」

「なるほど、じゃあ頑張ってね」
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