授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
板垣さんの顔を覆っていたのは見覚えのある中折れハット。ゆっくりと視線を動かして行くと。

「黒川さんっ!?」

こんなところにいるはずもない彼がいつにも増してパリッと濃紺のスーツを着こなし、目の前でにこりと笑って私を見ている。あまりの驚きに瞬きさえ忘れた。

信じられない……どうして黒川さんがここに?

「あなたは! 一体、こんなことしてなんなんですか?」

顔に押しつけられていた帽子を板垣さんが乱暴に跳ねのけると、それが風に乗って海へと飛んで消えていく。

あの帽子……あッ! ひょっとして、あのとき……。

先ほど、板垣さんから屋外デッキに誘われる前、帽子を被った背の高い男性とぶつかった。そのときは顏を見なかったからわからなかったけど、あれは招待客に紛れた黒川さんだったのだ。
そのことに気づいた私に、黒川さんが口の端を押し上げた。

「こんなことしてなんなんですかって、それは俺のセリフですよ。板垣刑事、俺の婚約者になにをしようとしてたんです?」

「俺の婚約者だって? あなたは彼女にとってもう過去の人だろ! なにをしようと関係ない」
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