授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
どこからともなく視線を感じて店内を見回してみると、店の外からショーウィンドウ越しに一人男性がこちらを見ていた。茶色のブルゾンのポケットに両手を突っ込み、黒のキャップを目深に被っていて私と目が合った瞬間に視線を下に反らしたため顔はわからなかったけれど、五十代くらいの人だ。初めは店頭に並ぶパンを物色しているのかと思って気に留めていなかった。

お客さん、だよね?

よく通りがかりの人が足を止めて外から店内を見ていることはあるけれど、ちらちら視線を動かしてパンを物色しているわりには不自然だった。

考えすぎだね、気のせい気のせい。

トレーを拭いて元に戻し、もう一度外を見るとその男性の姿はもうなかった――。


はぁ、どうしよう。本当に私、これから黒川さんとデートするんだ……。

仕事を終え、シャワーを浴びて身ぎれいにするとお気に入りの淡いピンクのワンピースを着て、髪型を整える。鏡に映る顔は軽く化粧をして頬はチークが必要ないくらいに紅潮している。こんな自分の顔を見るのは久しぶりだ。

そもそも最後に男の人と食事に行ったのでさえ何年前だったか思い出せない。それだけ色恋沙汰に疎遠だったのだと思い知らされる。だから変に緊張して黒川さんの前でなにか失敗しないかと不安になってきた。

待ち合わせは二十時に事務所の下。

家にひとりでいると悶々とあれこれ考えてしまう。刻々と約束の時間が迫り、私は少し早めに家を出ることにした。
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