授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「気づいてたのか」

黒川さんが苦笑いすると、やっぱりという確証に変わって怒りがこみあげそうになる。

「彼女が夜働いていたクラブの給料明細が浮気でない証拠づけになると、散々説得したんだが……どういうわけか、その証拠を出し渋っていてね」

「金田さんは弁護士に相談していることがバレたら、また暴力を振るわれるって思って怖かったんだと思います」

「さすが察しがいいね。俺もそう思う。だけど、最終的に彼女の心を開いて背中を押してくれたのは俺でもない君だ。おかげで明細を提出してもらえたよ。はぁ、今回の件で弁護士としてまだまだ未熟だって思い知らされたな」

両手を後頭部にあてがい、黒川さんはソファに凭れる。彼の逞しい腕が私の肩に回りそっと優しく引き寄せた。

「あの日、君のお裾分けを金田さんと一緒にごちそうになったんだ。『あんパンを食べたらなんだか勇気が湧いてきました! 離婚調停頑張ります!』って意気込んでた。だから俺も調停成立できるように話し合いを持っていかないとなって。ほんと、君には感謝してる」

「そんな感謝されるようなことしてないです。けど、金田さんにとっていい方向に進んでいるなら……私も応援します」

「ありがとう」

見つめ合い、自然と視線が絡み合うと口づけを交わした。コーヒーのほろ苦い味がほんのり口内に広がる。

「菜穂……」
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