授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
たとえ職を失っても実家に帰るなんて考えは毛頭なかった。大学卒業とともに自立したいということで、父に大反対された一人暮らしも『自分のことは自分でやりたいの!』と啖呵を切って出てきたのだ。いまさらおめおめと戻るなんてできない。私の父のことを知っているだけに聖子が気にかけてくれるのはありがたいけれど……。

私には、物心ついたときから母という存在はなかった。私が生まれてすぐに病気で亡くなったと聞かされている。仕事で忙しい父に代わって母方の祖母が面倒を見てくれて、寂しい思いをしないように父は私を過保護なくらいに可愛がってくれた。そしてその過保護ぶり、というより心配性が二十五になった今でも変わらず続いているのが私の密かな悩みでもあった。

「あ、黒川先生だ」

窓の外に向かって手を振る聖子の目線を辿ると、スーツを着た男性がこちらを見て小さく手を振り返しながら目の前を通り過ぎていった。背が高くて綺麗に顔立ちの整った紳士だ。

あ……。

気のせいかもしれないけれど、一瞬目が合った気がする。

「はぁぁ、黒川先生今日もステキ。菜穂? どうしたの?」

「え? う、ううん、なんでもないよ」
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