虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
不安でいっぱいだけどランセル殿下と共にいるのを選んだんだ。
なんだか羨ましい。ランセルと恋人になったことではなく、そうやってただ一人を好きになれるのが。
アリーセになる前も私は恋愛経験が殆ど無くて、小説を読んで憧れていただけだったから。
今なんて……考えたくもない。
「あの、王妃様、どうかなさいましたか?」
憂鬱さが顔に出てしまっていたのか、マリアさんが不安そうな声をかけて来る。
「あ、ごめんなさい。何でもないの。それよりもマリアさん、私はあなたとランセル殿下の結婚を応援します。何か困ったことがあれば遠慮なく相談してね」
ランセルからある程度聞いていたのだろう。
マリアさんは戸惑いながらもお礼お言葉を口にする。
遠慮がちなその態度は健気で、可愛らしい。
あの威張ったランセルには勿体ないくらい。
「マリアさん、これからもよろしくお願いします。仲良くして下さいね」
彼女となら友達になれそう。私が無事に王妃位から逃れられたらだけど。
「あ、ありがとうございます。私こそよろしくお願い致します」
マリアさんは大きな瞳に涙を浮かべ私を見つめる。
小動物のように愛くるしい。ランセルは絶対一目惚れだろうなって思った。