虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
「……あの、ランセル殿下とはどのように出会ったのですか?」
少し気になっていたことだ。子爵程度の家では王太子と接する機会は少ない。一体どうやって愛を深めたのだろう。
「あの、それは……私の家の屋敷は貴族街でも端にあるんです。少し歩いて橋を超えれば一般の方が暮らす市場などがあるところです」
町には通っていたのでだいたいの位置が想像出来る。
貴族街には大勢の貴族が住んでいるけれど、王宮に近い程上位貴族の屋敷が立ち並ぶ。
「町に近いのなら気軽に遊びに行けそうでいいわね」
ベルヴァルト公爵家からは徒歩でかなりの時間がかかったけど、マリアさんの家からは気軽に通えそう。まあ彼女は私と違って家を抜け出したりはしなそうだけど。
「はい。時々ですが町に遊びに出かけていました」
え、そうなの? 意外と行動的なんだ。
「それで……その時にランセル様とお会いしたのです」
「初対面は町だったの? ランセル殿下は視察かなにかで?」
「いえ、あの、お忍びでです。私、初めは王太子殿下だとは存じ上げなくて、素敵な方だとは思ったのですが」
まあ、ランセルは顔だけはいいからね。
「お互いの身分を知らないまま親しくなったの?」
「はい。こんなに立場が違うのになぜか話があって。ランセル様と居ると楽しくて、私はしょっちゅう屋敷を抜け出して会いに行ったんです」
「しょっちゅうって、ランセル殿下はそんなに町に出ていたの?」
「はい、お仕事があるそうで」
本当に仕事なのかな? 実はマリアさんに一目惚れをして無理やり時間を作っていたとかじゃないの?
真実は分からないけど、ランセルとマリアさんの関係って私が想像していたのよりずっと普通で、誠実なものみたい。
だけどお忍びで来た王子様と恋に落ちるのは特別で物語のようだ。
「マリアさんはいつランセル殿下の身分を知ったの?」
「つい最近です。とても驚いて、もう会うのは止めようと思いました。身分違いですから。でもランセル様が必死に引き止めて下さって」
「そう。好きな人にそんな風にされたら断れないわよね」