虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
「ああ……あの時か。敵意は持っていなかったがあなたを軽蔑する気持ちは有った。デビュタントとはいえ、夜会は社交の場だ。それなのに務めを果たさずフラフラと歩き回り、立ち入り禁止の場所まで規則を破り入って来る。ベルヴァルト公爵家の長女の悪評は知っていたが、あくまで噂だと思っていた。だが実際会ったあなたは悪く言われるだけの常識の無さで不快感を覚えた」
ランセルはついさっきまでの拙い言葉運びから一転、流暢に語る。
私の悪口になると舌が滑らかになるようだ。非常に感じが悪い。
でもランセルがいきなり攻撃的だったのはそういう事情だったんだ。
小説でのアリーセとの出会いの時と全然違ったのを不思議に思っていたけれど、なんとなく分かった。
アリーセはテラスで涙を浮かべながら佇んでいた。
とても儚く寂しそう映っただろう。
ランセルに声をかけられれば緊張して顔を赤くした。
対して私は平然とした顔で立ち入り禁止区内をウロウロしていた。
ランセルと目が合っても、顔色一つ変えない。むしろ不快感を出していた。
……まあ、客観的に考えても、対応は変化するよね。
特にランセルは女の子らしい、健気な子が好きみたいだし。