虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない

「マリア、大丈夫か?」

思った通りランセルが血相変えてマリアさんに駆け寄る。

「駆けつけるの早すぎ……」

ぽつりと零した言葉に、ロウが小声で返す。

「リセを見つけた時、ガーランドを使いに出しておいたんだ」


「良かった、無事で!」

ランセルは恋人の小さな体をぎゅっと抱きしめる。

周囲の視線など気にも留めていない様子。
まあ危機的状況だったので仕方ないけど。

ただしばらく放っておいても一向に離れる気配がないので、こほんと咳払いをしてから声をかけた。

「ランセル殿下、お取込み中申し訳ありません」

私の言葉に、ランセルは弾かれたようにマリアから離れる。そして掴みかかって来そうな勢いで私に詰め寄った。

「これはどういうことだ? なぜマリアを巻き込んだ!」

私には攻撃って訳ね。
相変わらずな態度に呆れるけど、マリアさんが危険な目に遭ったのは私がお茶会に誘ったから。

「申し訳ありません、良かれと思って声をかけ……」

「ランセル様! 王妃様に酷いことを言わないでください!」

謝罪をする私の言葉を、今度はマリアさんが遮った。

それもかなり強い口調で。驚き見れば彼女はランセル殿下に怒りの眼差しを向けている。

え……いつものか弱い彼女はどこに行ったの?

「マ、マリア?」

普段偉そうなランセル殿下が逆におどおどしている。

「王妃様は私の為を思って、誘ってくださったのです。それなのに酷い事を言わないでください!」

「マリア、済まない。そんなつもりはないんだ。ただ君が心配で……」

「それなら王妃様に謝ってください」

「あ、ああ」

……ランセルとマリアさんの関係って、思っていたのと違っている?

予想外の力関係を目の当たりにし、驚愕している私に、ランセルが気まずそうにほんの少しだけ頭を下げた。
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